中国史コラム1998 12月分


1998 12月分

『電脳中国学』が出ました『封神演義の世界』今昔文字鏡β版new.gif (426 バイト)

中国史コラム目次


◎今昔文字鏡β版

1998/12/25

 時々、中国史辞書に関する質問や、人をオンラインヘルプ扱いをするメールが幾つか来ます。そういう場合、いきなり「わからないので教えてください!」と書かれても、困ります。せめて使っているOSやら、ATOKのバージョンくらい書いてくれないと、対処のしようがないです。それと、「自分でどこまでどうやったのか」、そして「どこでつまっているのか」、詳しく書いて欲しいです。いかにフレンドリーなネットとは言え、いきなり「解りません。どうにかしてください」とか「教えてください」だけの内容のメールって、腹が立ちます。こっちだって、状況に応じて色々対処法を考えたり、調べてからメールを書く時間を割いています。何でもかんでもわいて出てくると思ったら大間違いです。

 しかもそういうメールに限って、NiftyのアドレスにHTMLメールを送りつけてくるし。トホホなメールには、トホホな内容が伴ってくるという法則でしょうか? そういうときはヘッダを見て、メーラーをチェックしますが、まず100% MicrosoftのOutlookExpressです。はい。初期設定でHTMLメール送るようになっている設定自体、おかしいですね。あれ。私が参加しているMLでも、HTMLメールで発言する人がいますが、これも大概は、OutlookExpressです。このメーラーも、他言語対応が楽な点など、いいところもあるんですけれど、このインターネット世界を無視した構造のおかげで、特にニュースグループで評判悪いですねえ。該当する人、初期設定でメールは「テキスト形式」に変えておいてくださいな。それだけで、無用な軋轢を避けられます。

 忙しいときには、腹が立って相手にする気さえ失います。こっちは商売でやっている訳ではないので、あしからず。今年ではないですけれど、授業の時にも、人の話を聞かないで聞いてくるやつがいました。まあ、そういう輩には「話聞いたか?」「聞いてない、じゃあ教えない」という冷たい返事に限ります。私はそういう人です。まあそれでも、内容はともかく、時間の許す限り、返事は書くことにしてます。ちょっと怒りながらね(笑)。あ、でもバグ情報や、上記の内容を踏まえた上の質問はどしどしお寄せください。解らないなら、せめてOSとATOKのバージョン、及び「どこまでやったけど解らない」程度は書いて来てください。ああ、ATOK以外のIMEに関しては、今のところ(多分これからも)ノーフォローです。人柱は皆様と言うことで。

 ※辞書の登録で詰まったら、ATOKのヘルプで「単語を登録・削除・追加する→辞書に単語を登録する→単語ファイルを利用して登録する」を見て解らなければ、JUSTSYSTEMのサイトか、市販のATOK本でも見てください。ATOK10以上なら、余り登録方法は変わらないと思います。それ以下のATOKについては、既に手元にないので答えようがないです。まあ、辞書の登録方法についてのページは、用意する必要はありそうですね。これはどうするか考えておきます。

 半分くらい、コラムじゃなくて愚痴になっていますねえ。来年から通常の日記でも始めましょうか? 実は今日の本題はここからだったりします。

 今日はクリスマスですね。でも、私はひたすら原稿書きです。原稿は何とか出来そうですが、画像のキャプチャをやり直さなければ。しかも明日から実家→東京→奥さんの実家という、なんだかバタバタした日々に突入するので、ノートパソコンの設定も旅用に設定を変える必要もあるし。夜になって、近所のパソコンショップにモデムカードを買いに行って、設定をしていました。これから年賀状も刷り始めるなど、泥縄というかなんというか・・・

 朝からマンションの上の階の人が引っ越し。日頃から上の人が、バタバタうるさかったので、実はありがたっかりします。こんな覚えは誰にでもあるんでしょうねえ。階下の人も同じこと思っていたりして。(^_^;)

 そんな中、『今昔文字鏡』のβ版を文字鏡研究会の古池さんから送っていただきました。ありがとうございます。って、某所のプレゼントに応募(しかも期限外という悪党)した結果ですが。

 『今昔文字鏡』は、漢字データベースソフトなんですけれども、その便利さは日頃から使っていて感じます。文字コード自体は『大漢和辭典』の続きという形で日々追加されています。もしここを見ている方でも「これは見たこと無い漢字だ!」と思ったら、文字鏡研究会に報告していただければ、それが新たな文字鏡コードに追加されます。私も一文字貢献しました。

 特に漢字検索機能が非常によいですね。漢和辞典の部首や読み以外にも、似たような部品の組み合わせや(、とか|の組み合わせでも可)、今回いただいたβ版では、英語からの検索も出来るようになっていました。検索結果に各種文字コードのコード番号や、『大漢和辭典』の巻・ページ数が表示されるので、索引代わりにもなっています。これがあると無いとでは、「この漢字ってJISに有るのかなあ?」と調べる手間が、ワープロ字典を使うよりも、確実に桁一つ時間が縮まります。私的にはすっかり手放せないツールです。

 このソフトが、年明けにもバージョンアップするのですが(先日その案内も来ました)、今回送っていただいたのは、そのβ版です。

 速攻でインストールして使ってみましたが、使い勝手はかなりアップしています。以前検索できなかった日中の字体が違って別コードになっている説・内等も、きちんと関連表示されました。これって同じコードで、骨の字体が違うことよりも、Unicodeが抱える重要な問題と思うんですけどねえ。検索する場合、中国・台湾では骨だろうが だろうがヒットしますけど、説だとヒットしませんしねえ。

 今回の最大の売りは、「漢字八万字のTrueTypeFont付属!」ということです。Windowsなので、複数フォントを使い分けて八万字を実現していますが、この種の多漢字を実現するゥプロジェクト(京大e-漢字 東大GT明朝等)の中では、初めてTrueTypeFontを装備したものです。このフォント自体は無料で使えますので、東大明朝がどう対抗するのか、密かな楽しみでもあります。

 他にも、梵字やら甲骨文字のフォントもありまして、個人的には甲骨文字フォントを是非見たかったので、色々いじってみました。現物の画像はこちらです。wpe2.jpg (886 バイト)(魚だったかな? で、画像はドット絵になります。)、ネット上にフォントセンターもありますので、仕様に準拠したHTMLファイル(先ほどの画像を文字鏡用のHTMLで書くと、<IMG NAME="mojikyo_font_097131"SRC="http://www.mojikyo.gr.jp/gif/097/097131.gif>なります)を書けば、「荀イク」なんて表記も無くなりますね。まあ、これはe-漢字でもう実現してましたが。でも、うーん、ここまで来たんですねえ、という実感はあります。

 ちょっと値段は高めですけれども、最近は大学の図書館にも納入されているようですので、興味のある方は使ってみてください。特に漢字に関して日常的に触れる機会の多い方は、私のように病みつきになること請け合いかと。販売は紀伊国屋書店で行っていますので、チラシもそこにおいてあるかもしれません。

※一応、「このページは(株)エーアイ・ネット開発の『今昔文字鏡』を一部に使用しております。」という一文を、お約束として書く必要があります。今後、ネットでこの文言を見かけることが増えるかもしれません。文字鏡には公式サイトもありますので、とりあえず見に行くのもよいかと。http://www.mojikyo.gr.jp/

題名 『今昔文字鏡』
開発・制作 エーアイ・ネット
編集 文字鏡研究会
ISBN 4-314-90009-1
発行年 1999
取り扱い 紀伊国屋書店(\28,000)

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12/13

◎『封神演義の世界』

 先週は水曜日から風邪を引いて寝込んでいました。火曜日の夜辺りから、何となく調子悪いなあ〜、と思っていて、朝起きると既に熱は37度代。医者に行く直前には38度代に突入していました。久しぶりに注射を打たれてしまった。

 原稿と原稿の狭間ということもあり、最低限のメールチェックをする以外は、ひたすら寝ていました。今は大分回復していますが、それでもまだふらふらします。

 前回お伝え(宣伝?) した『電脳中国学』、東方書店では結構いい感じで捌けているようです。一般書店ではこれからだと思いますが、予約して買っていただけると、多分確実に入手出来ると思いますよ。しかし、CD-ROM付き書籍って、図書館にはなかなか置いてくれないようです。まあ、盗まれること確実ですし。

 今日のネタは、『封神演義』フリークの間では既にデフォルトであろう書籍の紹介です。この本、前回にも書きましたが、初版での間違いが多かっという作者の方からの御指摘で、二版以降を買おうかと待っていました。先週来、風邪で寝込むまで幾つかの書店を物色していましたが、残念ながら入手できず(売れているんでしょうね。)、大修館から直で買おうかと考えていたところ、なんと、著者の二階堂さん自ら送っていただきました。ありがとうございます。>二階堂さん

 『封神演義』、この本を始めて知ったのは学生の時ですから、今から七〜八年前になります。おそらくみなさんの御多分に漏れず、「あの」安能翻案ものです。読んだときは「なんだか文章が読みにくいなあ。変にこっているし。」と思ったんですが、内容自体がおもしろかったせいか、三日三晩徹夜して読みました。実はそれ以来まともに読んでいませんけど。(^_^;)

 この話は今更蒸し返すまでもありませんが、殷周革命を元ネタにした神怪小説です。決して歴史小説ではありません。歴史的事実と符合しているのは、周が殷に取って代わったことだけです。しかし、最近ではこれを読んで「私殷周革命やりたいんです!」と言う人が、必ず古代史ゼミにはいるんだそうで。はいはい、そこのあなたですよ。殷周交代期の話なんて、ほとんど解っちゃいませんって。牧野の戦いの日付が、『呂氏春秋』などに記されていた「甲子」が、実はきちんと伝承されたものであったということを裏付ける記述のある青銅器(戦いの後、三日後くらいに作らせたものらしいですが)が、出土したのもつい最近のことです。これは「たまたま」偶然に見つかっただけですからねえ。

 そういえば、殷のことを商って書くサイト多いですね。一応、元々自称としては「商」「大邑商」というのが使われ、周が後に蔑称として「殷」を使ったようです。テクニカルタームとして、中国大陸では「商」を、日本では今でも「殷」を使うことが多いです。一つの国の称謂を幾つか併称するということは、先秦ではわりかし普通のことで、例えば先日書いた「始皇帝暗殺」でも、韓のことを「鄭」と読んでいました。これは春秋諸侯の鄭を韓が滅ぼして、そこに遷都したからですね。その他に魏を梁や晉と呼ぶこともあります。

 しかしまあ、『封神演義』では、元々「殷と商の使い分け」書かずに、殷で済ましている(というかそれしか知らない)と思うんだけどなあ。この辺は原文読んでいないのでパス。

 さて元に戻りますが、この本の構成は、内容の紹介・成立について・登場キャラクターの由来・その他の世界の大きく四つに分かれています。私は一時間ほどで読み終えましたが、一般向けながら、非常にベーシックなところをきちんと押さえているようです。

 もっとも、氏の言説は、普段からNiftyやネット上でよく見かけており、なんだか書き込みそのまんまの文体なのが、なかなかポイントだなあと読んでいましたけど。巻末の訳本紹介の、安能翻案ものに対する、簡潔にして実はそのまんまな批判とか。他にもさりげなく、辛辣な批判があちこちに織り込んであります。見つけてみてくださいな。

 多分安能ものしか読んだことがない人は、最初のダイジェストストーリー紹介の所を読んだだけでも、とまどうかもしれません。「あれ、知っているのと違うぞ。」と。まあ、中国の古典小説は、本書にも書いてあるように、版本によって中身ががらりと違ってきますので、自分のと違っているのもありなんですが、安能氏のはまあねえ。最近『三國志』ものを出したみたいですが、なんであの当時の人が「哥」なんて呼び方するかなあ。あれ俗語でしょう。比較的新しめの。『春秋戦国史』は未読につき、批評(酷評? )は差し控えます。

 また元に戻りまして、この本を読んでいると、『封神演義』がずいぶんと色んな神様(仏様・仙人など)を取り込み、それがまたあちらの民間信仰に影響を与えたのが解ります。氏によれば、作者は余り教養のある人じゃなかったらしいですが、単なる出来の悪い小説が、その無秩序さ故にか、逆に神の世界にも影響を与えてしまい、本自らが神々を「封神」してしまったと言えるのでしょうね。

 私なんか、古いところをやっているので、「中国的神々の世界」というと、白川静氏の本を思い浮かべるのですが、ここにかかれている明代の神々は、もっとダイナミックで楽しいです。それが明代の出版文化の発達と相まって、ますます混沌化していくのがなかなかよいです。

 『三国志演義』も関索の登場など、うれるんなら入れてしまえ! とやったのもあります。これは金文京氏の本を読んでもらうとして、『封神』フリークの方は、初版だけでなく、是非二版も買いましょう。

 この本は、大修館の「あじあブックス」の一環なのですが、なぜか大学の図書館には徐朝龍氏の本だけ入っていない。なぜかしら?

 この本の密かな? ポイントは、実は著者略歴にあります。著者の二階堂氏は、元々中国民間信仰が専門なんですが、普通「なりつつある」なんて文章使いませんって。 (^_^;)

題名 『封神演義の世界』
著者 二階堂善弘
ISBN 4-469-23146-0
発行年 1998
発行所 大修館書店

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1998/12/04

◎『電脳中国学』が出ました

 気が付けば、もう12月ですね。今年は寒いという話ですが、寒さにからっきし弱い私としては、お布団から出られない日々が続きます。奥さんは逆に「雪やこんこん」の犬状態で、冬が来ると大喜びです。

 今回は、思いっきり個人的な内容です(笑)。今年一年、あちこちに電脳絡みの原稿を書いていましたが(内容は殆ど同じですけど…)、その中での集大成というか、現状での電脳を中国学にいかに利用するかについて、そのノウハウを詰め込んだ書籍『電脳中国学』が、ようやく冊子の形になったので、サンプルが昨日自宅に届きました。この後献呈用の分がどさっと届く予定。また家人の目が気になる今日この頃です。

 まだ正式に書店レートには降りていないかと思いますが、神田の東方書店と内山書店には、既に何冊か渡したそうなので、興味のある方は明日か月曜日にでも見に行ってください。内容自体は充実していますが、そう小難しいことを書いているわけでもないので、専門家のみならず、中国モノやコンピュータで漢字を扱うことに興味のある方は買っておいて損はないですよ。

 「コンピュータと漢字」というと、やれJIS漢字がどうたらこうたらとか、Unicodeはいかん! といった観念的な議論が目に付きますが、この本は、それから巧妙? に逃げて? むしろ漢字を扱うということに対してのノウハウを詰め込んだ本です。従来は余りそういったことに関係した書籍が無かったので、ある程度売れるといいなあ、と皮算用をして本を出してみました。

 といっても、これは私一人が書いたものではなくて、「漢字文献情報処理研究会」の名の下に、共著の形で出版したものです。私の担当は、もっぱらホームページの紹介なんですけど、上記のノウハウ関連は、今『封神演義の世界』(大修館書店)が話題になっている、二階堂善弘氏が中心となって書かれています。そういえばご本人から伺ったところによると、件の本、初版で見つかった間違いを、二版以降で直しているそうなので、今から買う人はその辺りをチェックしましょう。

 早速来年の教科書にでも使おうかと、色々眺めています。自分でもあんまり使わないアプリや、畑が違う分野のホームページの紹介を見ていて、「ああ、そうだったんだねえ」とか「あれは使えそうだなあ」とか、色々勉強になります。今まで体験的にしか判っていなかったものも、上手く説明しているなあ、と感心しきりです。

 なんにせよ、初めて出した本なので、ちょっとはしゃいでいます。(^_^;)

 この本に関する内容の変更や、漢字文献情報処理研究会については、以下のurlまで。

 http://www.tama.or.jp/~chida-da/JAET/

題名 ―インターネットで広がる漢字の世界―電脳中国学』
著者 漢字文献情報処理研究会 編
ISBN 4-87220-023-3
発行年 1998
発行所 好文出版

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